「宗谷岬3km」という看板が見えたとき、先頭のボクは頭上のそれを指差して通り過ぎ、そして後ろを振り返った。すると一列になった全員が同じようにそれを指差していた。その瞬間、サングラスの中で堰を切ったように涙が溢れてきた。
 鏡のように凪ぐオホーツク海を左手に、追い風に後押しされる。すべてのものに後押しされていると、あのときそう思った。夕焼けに照らされながら、その1列が日本最北端に近づいていく。涙でぼんやりとかすんでいたが、何度も何度も振り返った。あのスローモーションのような映像は、一生忘れない・・・。

 本当にみなさん、お疲れさまでした。実際に走った4日間だけでなく、半年以上も時間をかけて長い準備をかけてきた人も多いと思います。それはまた長い緊張感だったと思います。そして応援してくださったみなさん、本当にありがとうございました。その気持ち、ぺダルを踏む力としてしっかりいただきました。

 振り返ると、この企画を思いついて依頼、ボク自身が本当に大きなエネルギーを注いできました。枕元で地図を広げると、そのまま明け方までルート設定に夢中になるほど興奮してしまったのも懐かしい思い出です。みんなが走る姿をイメージするだけでワクワクしてそうなってしまうのです。それもまた幸せなひと時ですが。
 Qちゃんにこれを説明するのに、カトマンズでボクが居候するチベット人宅で北海道の地図を広げながら、あーでもない、こーでもないとやったことも懐かしいもんです。

 終わってしまったことを思い出そうとすると、一瞬のできごとのようですが、記憶をひとつひとつたどっていくと、本当にいろいろな場面が蘇ってくる。ということで思い出に残っている瞬間を、ピックアップしてみようかと思います。

7/20
下見のためにぎっちゃんと合流・・・クルマに乗っているときも、船の中もホントに話は尽きなかった。船中ではぎっちゃんのスコッチをかなり飲んでしまった。うまかった。

7/21
下見開始・・・当初は富良野あたりまで行くつもりが日高止まりに。下見は半日かけて1日分というペース。食事も早々にひたすら運転の連続だったけれど。天気はずっと雨〜曇り。「今年はよくないね」と出会う人みんながいう。それだけで気が重くなってくる。二風谷でアイヌの木彫りをしている貝澤さん(彼がまた魅力的な人)に、小玉さんへのプレゼントをオーダー。出来上がりが楽しみだった!

7/22
下見2日目・・・富良野、旭川、幌加内を経て音威子府へ。ランチポイントがルートより外れていたり(さらにアップダウンの連続)で、場所の変更を余儀なくされる。結果的にはソバ畑走行⇒ソバを食す、でよかったよかった。

7/23
南幌延で鎌田牧場を7年ぶりに再訪。全員で伺うことを歓迎してくれた。ミルクをたっぷりいただく。日本海に出る(当初の予定ルート)と、スンゴイ強風(横〜向かい風)で、しかも30kmくらい続く。ぎっちゃんとニワ、無口になる。稚内市内へのアップダウンもかなりのものだった。
宗谷岬着。気温11℃、風速11℃(思いっきり向かい風)に、ぎっちゃんとニワ、無口を越えて笑うしかない。サロベツの海岸沿いの道をやめて、国道を通るか、音威子府からオホーツク側に出るかなど、あれこれ悩み、内陸の道道(県道の北海道版)を下見することに。この道の風景が素晴らしかったが、アップダウンが大丈夫かどうかなど、悩みは尽きなかった。その日はそのまま苫小牧に戻って、ユースホステル泊。

7/24
朝から地図作り、プロフィールマップ作りであたふた。午前中で終わらせて自分のバイクのセッティングなどにかかるつもりが、結局終日かかってしまう。薄井さんが合流第1号。いよいよだという感じで気持ちも昂ぶるが、用意の方はまだまだであせりぎみ。ユースのペアレントさんがお昼(三平汁)をごちそうしてくれた。感謝! 
2日目のサンドイッチに使うフランスパンを探すも、スーパーにない。電話帳にあるパン屋さんにシラミツブシにあたり、1件だけ発見。小1時間かけてなんとかGET。まだ雨は降っていたが、予報では翌日の9時くらいから晴れるとのこと(ガッツポーズ)!
参加者が続々とユースに集合。最後のグループを千歳空港にピックアップに行くと、赤黒いQちゃんが出てきた。昨日まで沖縄だとか(なんて女・・・)!

7/25
明るくなってから自分のバイクをセッティング(ようやくかよ・・・)。ここへ来て「あ、自分も走るんだ」という気がしてきた(ようやくかよ・・・)。朝の5時半頃、山崎さんが合流。これで全員が揃った。いよいよだ!ガイダンスを済ませ、霧雨の中、8時半にスタート。

とスタートするまでで、書くことがいっぱい・・・。ここからはポイントごとに振り返ってみようかと思います。

[7/25]
・勇払橋で太平洋に()

霧雨の中、銀色(鉛色)に波立つ太平洋に吠える。ここからいよいよ北へ北へと目指すと思うと、一同に気合いとも緊張ともいえない雰囲気が漂う。

・沙流川沿い
道の両側は鬱蒼とした森が続く。ここを先頭グループは時速30km、後方は20kmをキープ。チーム30km、チーム20kmといって笑う。思いっきりペダルを踏んで、北海道の大地を感じるのも、おしゃべりしながらも着実に進んでいくもよしなのだ。ちなみにニワ、途中でチーム30kmから脱落でした・・・。

[7/26]
・晴れたっ!

朝、目覚めると青空が。地元の人も「これで夏になるんでないかい」とのこと。やった〜、夏を気合いで呼び込んだぞ!
ラジオ体操と小玉さんの朝のあいさつ!日高峠へのヒルクライムも、青空のもとだとやっぱり気持ちいい。次の金山峠もあっけなく越える。

・ランチ
Qちゃんが先回りしてスペシャルサンドイッチを。藤棚の木陰がまたありがたい。デザートの夕張メロンもうまかった。

・富良野
エゾマツなどの森を抜け、なだらかな畑が広がる富良野の丘陵地へ。ヒマワリ、麦、牧草、ジャガイモなどの畑がホントにパッチワークのよう。アップダウンの道はじつは意外と勾配も距離もある。景色が大きいので、持ち前の距離感が狂ってしまうのだ。それと風景のよさにつられて、ついペダルを踏む足にも力が入ってしまうのだ。

・ダート
約2kmほどのダート区間があって、ここで明美さんが落車&パンクで遅れをとってしまう。そのときの様子は他の記述に譲りたいと思うが、ボクがそのときに強く感じたのは、これがひとつのチームなのだということ。先にラベンダーのソフトクリームポイントについても、みんな心配で気もそぞろ。結局、ルートをショートカットすることになったのですが、誰もがみんな一緒に宗谷岬を目指そうと思ってくれたことがとってもうれしかった。その想いが明美さんの脚を後押ししたんではないかと思う。

[7/27]
・幌加内のソバの花

江丹別峠を下っていくと、一面に白い花をつけたソバ畑が!日本一のソバ畑とはいわれているけど、もう圧巻。そんな大地をさんざん走って、昼食はソバ。これもホントうまかった!

・朱鞠内湖〜美深峠の白樺林

この区間、菅原さんにずっと引いてもらった・・・。感謝です。この道は国道40号と平行した裏道みたいなもので、クルマも少なくとっても気持ちいい。深い森の中をひたすら行くという感じがまたとってもいい。

・美深峠
上りはリカンベントの渡邉さん、BD-1の吉川さんとのんびり行くうちに到着。下りは勾配も急カーブもそれほどなく、結局最後までノーブレーキ! 下りきったところに待っていたジャガバターもうまかった。

[7/28]
・快晴&追い風

残された160kmを名残惜しむようにして出発。雲ひとつない空と追い風に気分も高揚。天塩川のゆるやかで大陸的な流れとともに、ゆっくりと北を目指す。国道をそれた道がまた気分よかった

・南幌延の鎌田牧場
こちらでランチ。絞りたての牛乳とイモダンゴをいただく。ウマイ! そして通りすがりの我々に温かいおもてなしがとってもうれしかった。
「今度は泊まっていきなよ」「ハイッ!」

・稚内のスコットランド
幌延を過ぎて最後の丘陵地へ。まるでスコットランドのよう(って行ったことないけど)。下見のときに、景色はいいけどアップダウンが・・・、と気になったところ。ところがみんなは、その美しさに包まれながら、楽しそうにペダルを踏んでいく。こちらの心配がみんなのパワーにあっけなくも一蹴された。

・宗谷岬の夕日
最高の参加者と、最高のスタッフとで、その瞬間を迎えることができた。いつまでもずっとそこで浸っていたい気分だった。