ボクは絶対に泣かない男です。

悲しいときも、うれしいときも、心にグッと込み上げることがあっても、それが涙となってこぼれ落ちたことは一度もありませんでした。

それなのに、ニワさんを先頭にした15台のバイクがきれいな一列になって、日没が迫る宗谷岬の突端に、吸い込まれるようにゴールしていくのを、最後尾スタッフとして見届けた瞬間に、カラダの内側からダムが崩壊していくような感覚を覚えたのです。そして4日間の完走とゴールを喜んでいる、日本一の「ヘナチョコ」と自他共に認める妻の姿を見た瞬間、もう、涙は止まりませんでした。

この企画の発表があったとき、自分は完走できても、妻は体力・精神面から考えて「まず無理だろう…」と思いました。しかし、だからこそ絶対に完走させて、一緒にゴールして、これからの自転車ライフのみならず、長い人生において「やればできるんだ!」という自信と、「どんなハードルも一緒にがんばって乗り越えられるんだ」という確証を得たいと思ったのです。しかもこの北海道ライドの最中に結婚記念日を迎えるため、忘れられない思い出になることは間違いなし!です。

年が明けてすぐに、監督がボクでたった一人の部員が妻という「めざせ!北海道600キロ完走」という部活動が始まりました。スポーツクラブのジムに通い基礎体力をつけ、アップダウンの激しい伊豆で輪行・宿泊による3日間連続のロングライドを実施しました。さらにニワさん主催のロングライド養成講座に2回参加し、藤下さんのアドバイスのもとにポジションやバイクのセッティング、サプリメントの摂取方法などを学びました。5月からは江戸川・渡良瀬川沿いのサイクリングロードを使って160キロを何回か実走しました。暑くなってからの実走はヘナチョコの妻にとっては過酷だったと思います。途中で倒れたり、寝込んだり、吐いたり…。

こうしたなかで、走るペース、休憩のタイミング、サプリメントの効果、サドルをはじめバイクへの装着品やウェアの選択などがわかってきました。もちろん北海道600キロ縦断を完走することのモチベーションも高まってきました。

そして、すべての練習が、北海道では花開きました。

ボクは最後尾担当だったので、あまり彼女と並んで一緒に走ることはありませんでした。でも後ろから彼女の走りを見ていると、練習のときのヘナチョコさは微塵も感じませんでした。登りでは軽々とペダリングしているし、ニワさんと一緒にスパートもかけている…パワーで勝る他の女性参加者ともニコニコ笑いながら、おしゃべりしながら走っていました。

ただ、2日目に彼女がダート区間でフロント過重が原因で砂利にハンドルを取られ、2度落車し、パンク、ケガしたときは「ああリタイアか…」と覚悟しました。今までの彼女だったら精神的に落ち込んで、それが「もう乗れない…」に直結していたはずです。でも今回は違っていました。みんなに追いつくまでは、ボクが引っ張り、その間彼女は泣きながらペダルを踏んでいたのですが、ニワさんはじめ、参加者全員からの「一緒に宗谷岬をめざそう!」という暖かい気持ちが、彼女の「完走したい!」という気持ちを後押ししてくれたのです!そこから彼女はさらに強くなった気がします。それ以降はケガが痛々しいものの、精神的には完全に立ち直り、笑顔で宗谷岬を目指していました。

ボクは今までの「部活」指導が間違っていなかったことにホッとするとともに、4日間のロングライドを楽しく思わせる、北海道の澄んだ空気、どこまでも続く青い空、雄大な景色に感謝し、参加したメンバーに感謝し、また、この企画を立ててくれたニワさんや、一緒にスタッフとしてサポートカーで走ってくれているQちゃん、ぎっちゃんに感謝する毎日でした。

最後尾から見る、みんなのライディングは、延々と続く直線道路でも、どこまでも広がるソバ畑でも、牧草地でも、ラベンダー畑でも、青い空をバックにしても…とにかくどこでも…カッコよかったあ。みんな参加の動機はいろいろだろうけど、とにかく宗谷岬に「一緒にゴールする」ことを目指して走っている。そんな思いがボクにも充分に伝わっていたから、ディレイラの調子が悪かったり、足が痛くなったヒトもいたけど、絶対に直さなきゃと思って調整したし、真剣にマッサージもさせてもらいました。

みんなの熱い思いがこもった、けれども愉快で楽しい、笑いの絶えることのない、涙あり、感動ありの壮大なイベントが幕を閉じました。「北海道600キロ縦断」で得たものは、参加者それぞれに異なるとは思いますが、ただひとつ共通のものがあります。それは…「つぎのイベントは何かな?」という思いです。ウチのヘナチョコは、まだカラダじゅうに擦過傷や紫色のアザを残しながらも「どんどん自転車が好きになっていく…」などと申しております。
さあ、ニワさん、どう責任をとってくれますか?